営業マンに「達成できる目標設定」を作らせる~目標シート・根拠・戦略の作り方と具体例
2019/05/16
株式会社マーケティング・トルネードの佐藤です。
今回のコラムは、
「適切な営業目標とはなにか?」「営業目標のつくり方は?」「目標数値の根拠は?」などについて解説します。
「自社の商品やサービスに自信はある。もっと売れるはずなのに・・・」
「営業マンによって成績や成約率に、優劣の差があり過ぎる…どうしたら底上げできるのか?」
そんな風に悩んでいる社長様や、営業部門のリーダー・管理職の方にも、参考にして頂けると考えています。ぜひ、お役立て頂ければ幸いです。
目次
そもそも営業目標とは?なぜ目標設定が大事なの?
営業という仕事には、年度目標や、月次目標など、目標数値がつきものです。
そして、その目標数値の達成率を管理していきます。
これらは、営業・セールスの現場では、当たり前に行われていますが、そもそもどうしてそんな事をする必要があるのでしょうか?
◆会社のヴィジョン(将来のあるべき姿)に近づくため。
営業上の数値目標というのは、会社のヴィジョンの『いち部分』です。
どういうことか、少し説明をしましょう。
もともと、経営者というものは事業の成功を目指しています。
それは同時に、将来の理想的なイメージとか、夢とか、ヴィジョンなどとも呼ばれることもあります。
それらは、ぼんやりとしたイメージで抱かれる場合もあるし、具体的で明確なこともあります。
※ここではヴィジョンについては詳しく掘り下げません。
そのヴィジョンは、数字で計測できないことも少なくありません。例えば、社員の働き方、会社の規模、業界シェア、地元への貢献のあり方などは、数字では計ることが出来ません。
その一方で、もちろん、「売上規模」や、「給与水準」、「成長率」などという数字で計測することが出来るヴィジョンもあるわけです。
営業目標というのは、このような数字で計測することができるヴィジョン、それに近づいていくために必要だということです。
10年後の将来ヴィジョン達成に向けて、1年後の目標を立てる。
その1年後の目標が、月次の売上目標1,000万円で営業マンが10人だった場合、乱暴に割り振ってしまえば、1人あたり100万円の売上を持ってこないと全体の目標を達成できません。
営業上の数値目標というのは、会社のヴィジョンの『いち部分』というのは、そういうことです。
本来は、それだけ重要な数字なのです。
◆必要な「利益」を確保するため
社員が100人いて、営業マンが20名の会社があるとします。
1人あたりの給与が30万円であれば、100人いるわけですから、単純に、3000万円の粗利益がないと給料を支払うことが出来ません。
会社は、経営ヴィジョンを達成するためのものでもありますが、「社員の生活の糧」を稼ぐための大切な存在でもあります。
収入が少な過ぎれば、生活も苦しくなってしまい、社会貢献どころではなくなってしまいます。
だからこそ、経営者の本分のひとつは、「稼ぐ」ということでもあるのです。
営業上の目標数値は、そうした「利益」を確保するために、どれぐらいの売上を達成しなければならないか、という目安の数字でもあります。
◆「役割分担」と「責任範囲」を明確にするため
同じ人の集まりでも、「組織」と「群衆」は違います。
その違いは、同じ目標を持っていること、そして、役割分担と、それを合わせるということだと言われています。
つまり、組織であるためには、役割分担がつきものなのです。
では、「1人の営業マン」の社内での役割分担はなにでしょうか?当然ですが、売上を上げることも役割のひとつであり、その責任範囲を明確化するためにも、目標数値は大切なのです。
◆ 部下を数値で管理するのに必要
営業の目標設定は、「売上高」だけではありません。
新規顧客への訪問数、アンケート用紙獲得数、次アポ数、成約数、粗利益率、リピート率など、営業プロセスを細かくわけた数値を、サブ目標としてもっています。
これは、部下を具体的な数値で管理するためにも大切な指標となります。
目標の達成率や進捗状況を見れば、
「目標の数値に向かって、次アポは取れているが、見積もり提案数が足りてないな。つまり、次アポの時にちゃんと要望ヒアリングが出来てないのかも・・・」
と、部下への指導のイメージをすることが出来ます。
また、自己分析にも役立ちます。「今月は、新規顧客への訪問数が少ないが、次アポ率も、成約率も高い。成績アップのためには、訪問数を増やせば良いな」と、自分で自己分析できるのです。
◆部下のモチベーションアップのため
米国のドラッカーが提唱した考えに、目標管理(MBO/Management by objectives )があります。これは、上司が部下の目標を立てて数値を押し付けるのではなく、営業マン自らが目標を設定し、進捗や実績を主体的に管理するマネジメント手法です。
上からのトップダウンではなく、部下の営業マン自身に管理させることで、主体的に考えさせ、やる気を引き出す狙いがあります。自分で設定した目標が達成できれば、やり遂げたときの達成感が大きいため、営業マンのモチベーションアップにつながります。
これを行うことで、「やらされている」という受け身な態度から、「自分で立てた目標なのだから、達成したい」という当事者意識が強まり、営業マンの動きが良くなるのです。
目標設定するうえで大切なポイント
いよいよ目標設定の仕方について踏み込んでいきます。
・・・とその前に、営業マンの目標設定に大切な2つのポイントを話しておきますね。
目標設定に大切な2つのポイント! ● 根拠のある明確な数字で目標設定を作成すること ● 達成できる目標設定を作成すること |
とても大事なポイントです。
◆KPIに矛盾しないことで、根拠のある数字にする
とても大事なポイントです。
トップダウンで決めた目標設定の場合に陥りがちなのですが、「今月の売上が営業部全体で1,000万円だから、ひとり100万円が売上目標です」といわれたら、営業マンはどう思うでしょうか。
この100万円には、妥当性が足りていませんよね。どうして単純に均等割なのでしょう?
また、「どうやって目標を達成するか」という視点がすっぽり抜け落ちているのも、わかるでしょう。
ほかにも、以下のような目標設定はまったく根拠がないためNGです。
×根拠のない目標設定の悪い例
● 全体の売上目標を単純に振り分けた目標設定 ● 「前年比の10%増」など、単純に過去実績を参考にした目標設定 ● 「みんな頑張ってるから」など精神論に基づいた目標設定 |
根拠ある目標設定とは、営業プロセス全体の細かい数字に矛盾しないことが大切です。
〇根拠のある目標設定の良い例
※さらに売上を向上させるためには、具体的に、どのような計画・プランを立てれば、これらの数字を向上させられるか?それを検討して仮説を立てた上で、新たな目標設定へと反映する。
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これらの数字には根拠があるため、達成できる可能性が高い目標設定になっていることがおわかりでしょう。
目標設定に、「SMARTの法則」を使ってみるのも良い
目標設定には、上記のように、営業プロセス全体の設計をしっかりしていくことで、それに矛盾しない目標数字にしていくことが大切だとお話しました。
そのうえで、目標設定の仕方で、参考になる情報として、いくつかあります。
目標設定のためのメソッドはいくつかあります。
- ベーシック法(目標項目、達成基準、期限設定、達成計画の4ステップで作る方法)
- 三点セット法(ベーシック法をより深く掘り下げた方法)
- ベンチマーク法(ライバルをベンチマークに設定する方法)
- ランクアップ法(自分を成長させる目標を6つの切り口で考える方法)
- SMARTの法則/スマート法(ベーシック法のうち、目標設定の精度を上げた方法)
- オープンウィンドウ64/マンダラート(大谷選手も活用した9マスを埋めていく方法)
ここでは、目標設定に特化した手法でもある「SMARTの法則」を使ってみるのも良いでしょう。
SMARTの法則とは、ジョージ・T・ドラン氏が1981年に提唱した目標設定の手法です。
目標設定の要素を「Specific」「Measurable」「Assignable」「Realistic」「Time-related」の5つの成功因子に分けていて、その頭文字が「SMART」となります。
- Specific(明確性)/設定した目標は明確なものか
- Measurable(計量性) … 目標達成率や進捗度を測定可能か
- Achievable(達成可能性) … 達成可能な目標であるか
- Relevant(関連性)… 会社のミッションと関連のある目標になっているか
- Time-related(期限設定)… 目標達成に期限を設けているか
項目を見ただけでも、今まで解説してきた理想的な目標設定の条件(「根拠が明確」で「達成できる」目標であること)を満たしたものが作れることがわかりますね。
それぞれの項目の詳細と、具体例を紹介します。これを参考に、ぜひ貴社の目標設定を作ってみてください。
◆Specific(明確性)/設定した目標は明確なものか
前述した内容と重複しますが、目標には明確な根拠が必要です。どのようにその数値目標を設定したのか、売上の数字を細分化して、明確な根拠がある目標を設定しましょう。
具体例: 新人のAくんは1軒あたりに少し訪問時間がかかるが、1日3軒は回れる。 今月は訪問スピードを上げてもらって、1日3軒を3.5軒にしてもらう。 前月の成約率は50%で、1軒あたりの成約額は2万円。
→今月は1日3.5軒×20日×2万円×50%で、70万円(前月より10万円の売上アップ!) |
このように具体的に明確に設定した目標であれば、達成できない場合にも「どの部分が足りていないのか」把握しやすく、改善点が見えやすくなります。
◆Measurable(計量性)/ 目標達成率や進捗度を測定可能か
目標達成率や進捗状況を量的に測定できることも必要です。先ほどのSpecificで売上を細分化していれば、どの部分が足りていないのか、逆にどの要素が順調だから達成できたのかを明確に把握することができます。
また、営業スキルといった測りづらい要素をあえてスコア化するのも有効な施策です。
具体例: 新人のAくんの営業スキルを60点から80点に上げて、成約率をアップさせたい。 そのために、同僚や上司に商談に同行してもらい、プレゼンテーション評価スコアを付けてもらう。
→プレゼンテーション評価スコアが上がり、成約率がアップすれば、売上もアップする! |
◆Achievable(達成可能性)/達成可能な目標であるか
希望的観測や精神論ではなく、「実現しうる」目標を設定しましょう。
これはSpecificとも関連しますが、明確な根拠に基づいて、達成可能な目標を設定する必要があります。
具体例: 新人のAくんは1軒あたりに少し訪問時間がかかるが、1日3軒は回れる。 今月は訪問スピードを上げてもらって、1日3軒を3.5軒にしてもらう。
→1日3軒を4軒にスピードアップさせれば売上は1.3倍になりますが、無理な目標設定はNG。 |
◆Relevant(関連性)/営業戦略と関連のある目標になっているか
営業マンの目標は、組織や会社の戦略・ミッションと密接にかかわっている必要があります。いくら実現可能で根拠ある目標設定でも、営業戦略と関連性がなければまったく意味のないものになります。
具体例①: 目標金額には達成したが、会社が売りたいAという商材ではなく、Bという粗利率の悪い商材ばかりを売ってしまった。
→上司が売上の内容を都度確認し、軌道修正することが必要。 |
具体例②: 新人Aくんを育てるために、名刺交換の数を目標設定した。結果、その目標は達成したが、売上は伸びなかった。
→次のフェーズとして、成約率を上げて売上を伸ばす方向に軌道修正が必要。 |
たとえ良い目標でも、期限が定まっていないと良くありません。同じ数値目標でも、1週間で達成するのと1年かけて達成するのでは、その意味はまったく違ってきます。
目標を立てる際は、1カ月後の目標なのか、1年後の目標なのか、期限設定が必ず必要です。中長期的な視点から考えると、年間目標、四半期ごとの目標、1カ月ごとの目標、1日ごとの目標…と細分化して設定すると、進捗状況も把握しやすいのでおすすめです。
具体例: 1年後に売上を2倍にしたいと考えていて、来月の目標を1.5倍にした。
→期限ごとに最適な目標設定が必要。1年かけて売上を2倍にするならば、1カ月ごとに1.17倍にしていく。 |
【例文つき】営業マンの目標設定シートの作り方
SMARTの法則をひとつずつ解決していけば、かなり具体的で根拠がある目標設定をすることができたはずです。次は、それらを目標設定シートに落とし込んでいきます。
できればSMARTの法則の考え方を叩き込んだうえで、営業マン自身に目標設定シートを提出させるのがベストです。自分で考えて目標設定することにより、営業マンの働きぶりや自主性に変化があるはずです。
SMARTの法則に合致した目標設定ができれば、シートの内容は自由で構いません。ここでは筆者が考えた目標設定シートの例を紹介しますね。
〇年〇月の目標設定シート | |
営業部全体の売上目標 | 売上額:1,100万円(前月比110%)
(補足:全体の売り上げ目標を共有します) |
ここから下を、各個人に書いて提出してもらいます。
<新人Aさんの場合>
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私の売上目標 | 売上額:前月の売上60万円から10万円アップし、70万円を達成。 | |
売上目標の具体的な根拠 | ||
①訪問軒数アップ | 先月は1日3軒×20日×客単価2万円×50%で60万円でしたが、 今月は訪問軒数を1日3.5軒に上げることで売上を達成します。 | 新たな取り組みとして、訪問した際に、「合意」というトークを取り入れることで、時短になるので、訪問件数をあげられる。 |
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単に、1日の訪問件数を増やします、と宣言だけでは目標数値は達成することは出来ません。
今まで続けてきた営業のやり方と、これからやる営業のやり方に、どのような変化をさせるのか?
それが無いような、目標数値アップは、絵に描いた餅になりかねないのです。
大切なのは、目標に対しての具体的な根拠があり、実現可能性があるかということです。
前月よりも売上アップを狙うという計画には、それを可能とする根拠が必ず書かれているかをチェックする必要があります。
プランニングに行き詰っている部下がいたら、一緒に目標達成のための根拠やアドバイスを行い、チーム全体の売上アップの底上げをしていきましょう。
ぜひ、参考にしていただければ幸いです。
執筆者:株式会社マーケティング・トルネード 代表取締役 佐藤昌弘
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