従業員解雇の仕方|円満に手続きを進めるためのポイント、コツを紹介
2016年12月04日
従業員を解雇するには、解雇できる条件や正しい対応方法などを正しく理解しておかなければなりません。
せっかく雇用した社員に退職してもらわなければならないことに、心を痛めることもあるでしょう。当然、解雇を告げられる方も同様です。
しかし、正しい手順や条件を理解せずに一方的に解雇を告げてしまうと、訴訟に発展したり、口コミで会社の悪評が広まったりと、思わぬトラブルに苛まれてしまうことも。
そこで、本記事では、従業員の解雇の仕方と円満に手続きを進めるためのコツ、また、解雇の種類についても具体例を交えてご紹介します。
目次
【執筆者プロフィール】
佐藤 昌弘(さとう まさひろ)
株式会社マーケティング・トルネード代表取締役。
1968年生まれ。愛知県出身。京都大学工学部卒業。
地元大手都市ガス会社を退職後、住宅リフォーム会社を創業し、2001年まで3年半経営した後、年商3億円超で売却。
2002年、株式会社マーケティング・トルネード設立。
個人事業主様から年商3兆円超の上場企業まで、研修やコンサルティングを提供。
実際に聞いた雇用主が解雇を検討する様々な理由
私が実際に知人やお客様から聞いた、雇用主が従業員の解雇を検討する理由を紹介します。
- 仕事はできるが性格が攻撃的で他の従業員に悪影響を与えている
- 余裕がなくなるとパワハラ気質になってしまう
- 会社や社長の悪口を社内で他の社員に言って回る
- 外回り中にサボってマンガ喫茶に行くことを繰り返している
- 仕事中にパチンコに行くことに加え多額の借金まで抱えているほどのギャンブル依存症
- 新人に厳しくすぐに辞めさせてしまうベテラン
- 仕事はできるが遅刻が多く他の社員に示しがつかない
- 体に入れ墨を入れていることが発覚した
- とにかく無断欠勤が多い
その他にも、仕事をしない人を辞めさせたいとか、使えない社員、ダメな社員を辞めさせたい、問題ばかり起こす社員に辞めてほしい・・・
いろんな事情があって、「辞めたほうがいいよ」と伝えたいこともあるでしょう。
そう悩み思いつつ、時間ばかりが過ぎていく、そんな社長さんを多く見てきています。
実際に聞いた解雇に苦労する様々な理由
上述のような理由がありながらも、従業員の解雇を検討すらできなかったり、踏み切れなかったりするのには様々な理由があります。
こちらも、実際に知人やお客様から聞いた理由です。
- 円満な退職にしなければ引き継ぎに対して非協力的になる。
- 相手が弁護士を使って不当解雇として訴訟を起こされたらどう対応していいか分からない
- 訴訟に発展して支払い命令が下ったケースを友人の社長から聞いた。
- ネットの掲示板やSNSなどで真実ではない悪評を広められたら困る
可能であるならば、お互いにわだかまりを残すことなく、円満退職・解雇できるのが理想です。
しかし、それを実現する方法を知らない方が多いのもまた事実です。
次項からは、従業員を円満に解雇する条件について解説します。
円満に解雇するための条件
争うことなく従業員(労働者)を解雇するには、解雇が有効と認められなければなりません。
解雇が有効と認められるには、以下のような条件が必要です。
- 法律で解雇禁止事項に該当していないこと
- 就業規則の解雇事由に該当していること
- 法律に則って解雇予告を行うこと
法律や就業規則に従っていない場合、解雇は無効とされる可能性があります。
また、従業員の精神的・経済的不安も考慮することが、円満解決の秘訣です。
解雇禁止事項とは
解雇には禁止事項が定められており、労働契約法第16条には次のような記載があります。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。 」
具体的にどのような事項が禁止されているのか、詳しく解説いたします。
解雇禁止期間
解雇禁止期間の目的は、労働者を不当な解雇から守り、特に妊娠中や災害に遭った際など、脆弱な状況にある労働者を支援・保護するために定められています。
次の4つは、労働基準法第19条で解雇禁止にされている期間です。
①業務中の事故・災害による療養のための休業:労働者が業務中に事故や災害に遭い、それによって負傷し、療養が必要な場合
②産前・産後の休業:妊娠中および出産後の特定の期間(産前・産後の休業期間)
③解雇制限の例外
④その他
解雇禁止期間中であっても、試用期間中に雇用契約の条件を満たさない場合や労働者が重大な規律違反を犯した場合など、例外事項に当てはまる場合は解雇できます。
その他の解雇禁止期間や制限に関する具体的な例は、国や地域、労働法によって異なりますが、企業側のやむを得ない事情により事業の継続が困難になった場合などが考えられます。
法律に基づく解雇理由の制限例
解雇理由の制限とは、解雇する際に企業が主張できる理由に制限があることを指します。
以下のようなケースは、法律に基づき解雇理由として制限される例です。
①妊娠・出産、休業の請求・取得等を理由とする解雇
②育児介護休業取得を理由とする解雇
③法令違反の申告、紛争解決の援助等を理由とする解雇
④その他
労働基準法第65条 では妊娠中の女性に産前に6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後に8週間の休業を認めているため、期間中とその後30日間は解雇が禁止されています。
育児介護休業取得を理由に解雇することは、従業員が家庭と就業の両立を図れるようにするため、解雇の理由として認められません。
また、従業員が自らが勤務する企業の法令違反を通報した場合も、それを理由に雇用主である企業が解雇することは禁止されています。
解雇の種類、具体例を交えて紹介
解雇は次のような種類に分類されます。
- 普通解雇
- 懲戒解雇
- 整理解雇
- 諭旨解雇
それぞれのケースを一つずつ見ていきましょう。
普通解雇
普通解雇は一般的な解雇で、従業員の債務不履行を主な理由とした解雇です。
具体的な業務評価や評価基準に基づいて判断され、解雇理由が客観的である必要があります。
- 業務適性の不一致:採用時に期待された業務遂行能力を発揮できなかった
- 業績不振:売上目標を達成できないなど企業の利益に貢献しなかった
普通解雇は後述する懲戒解雇と区別されて使われ、従業員に対して適切な予告期間が与えられることが一般的です。
懲戒解雇(ちょうかいかいこ)
懲戒解雇は、労働者に罰を与えるための解雇です。労働者が規律違反を重ねたり、重大な違反を犯したりした場合に行われます。
労働者に科されるペナルティの中でも極めて重い処分で、即時効力を持っているため予告期間は必要ありません。
懲戒解雇にあたる事由としては以下が挙げられます。
- 盗み:職場から物品や金銭を盗んだ
- 業務上の機密情報の漏洩:企業の機密情報を漏洩させた
懲戒解雇には、従業員が明確に規則違反を犯し、その違反が重大であることの証拠が必要です。
整理解雇(せいりかいこ)
整理解雇は、企業が経営上の必要性から人員削減を行う際に行われる解雇です。
経営不振や事業縮小など、以下のような企業側の事情による人員整理のために行われます。
- 事業の再編成:企業が事業の再編成を行い、特定の部門や職種が不要になった
- 感染症による業績の悪化:新型コロナウイルスの影響で業績が悪化し、業務を縮小せざるを得なくなった
整理解雇は事業者側の事情による解雇であるため、認められるには厳しい要件を満たさなければなりません。
諭旨解雇(ゆしかいこ)
諭旨解雇は従業員に対して退職を促す解雇方法で、従業員に問題の改善の機会を与え、それに従わなかった場合に行われる解雇です。
代表的な例では、健康状態や業務遂行能力の問題があげられます。
・健康上の理由:健康上の問題で業務を遂行できなくなり、長期休職が続く場合
・業務遂行能力の低下:業務遂行能力が著しく低下し、職場での適応が難しい状況
「諭旨解雇」と似た名前の「諭旨退職」は、従業員自身が企業からの助言に従って「自分から辞める」ことを指します。
不当解雇とは?正当な解雇となるように注意したいポイント
解雇には合理的な理由が必要です。従業員の業務遂行能力に問題がないにもかかわらず、不合理な理由で解雇を行うと不当解雇に該当します。
ここでは、不当解雇に該当する例をいくつかご紹介します。
能力不足による解雇
新卒採用や未経験募集の場合、能力不足によって解雇することは難しいとされています。
裁判所が「能力不足は使用者側の教育・指導で改善できる可能性がある」と判断した場合、解雇は認められません。
妊娠を理由にした解雇
雇用主が従業員の妊娠を理由に解雇した場合、不当解雇と判断され解雇は無効になります。
とある学校の女性教諭が「妊娠という私事によって長期間、担任教諭としての職務を果たせなかった」という理由で解雇されたが、解雇理由が不当と判断された判例もあります。
無断欠勤を理由にした解雇
従業員が理由を告げずに長期間欠勤した場合でも、無断欠勤の理由によっては不当解雇と判断される場合があります。
3カ月の無断欠勤を理由に懲戒解雇された事案では、無断欠勤の理由が使用者による暴行が原因だったため無効と判決されました。
解雇予告とは
従業員を解雇するには、企業は労働基準法に則り、従業員へ事前に「解雇予告」を行わなければなりません。
ここからは、従業員を解雇する際に必要な手続きについてご紹介します。
1.解雇予告は30日前までに
従業員を解雇するには、少なくとも解雇日の30日前までに「解雇予告」が必要です。
解雇予告を怠った企業は、労働法違反として従業員から法的訴訟を提起される可能性があるので、予告期間内に通達しましょう。
予告日数を数える際は、解雇予告日自体は含まれません。
2.解雇理由証明書・解雇予告通知書の作成・提出
解雇する際は、解雇理由についての証明書・通知書が必要です。解雇を言い渡す企業は、各書類を作成して労働者へ提出します。
解雇理由証明書は、雇用者(企業)が従業員(労働者)に対して、なぜ解雇する必要があるのかを書いた書類です。
解雇が公平で合法であることを示すもので、法律に基づいて作成されます。
解雇予告通知書は、解雇することを事前に知らせる書類です。通常、解雇予告期間(解雇の日までの期間)を開始するために使います。
3.即日解雇の場合は「解雇予告手当」を支払う
原則として解雇予告は30日前までに行いますが、「解雇予告手当」を支払うことで即日解雇も認められます。
また、解雇予告期間が30日に満たない場合も、その日数分を解雇予告手当として支払うことで、解雇することが可能です。
従業員が突然の解雇に備えて生活を立て直すための、一時的な経済的支援を提供するためにこのような規定が定められています。
解雇予告が不要な例
解雇予告は、いかなる場合でも必要というわけではありません。
以下のような雇用形態の場合は、予告期間を設けずに解雇できます。
・日雇い労働者
・2ヶ月以内の期間を定めて雇用される者
・季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて雇用される者
・試用期間中の者
雇用期間が短期の場合で、予め期間を定めて雇用した場合は、解雇予告期間を設定せずに解雇できます。
また、試用期間内に労働者の適正や条件が企業の求めるものと合致しない場合は、予告期間外でも解雇は可能です。
【有期雇用契約の場合】期間中の解雇は原則認められない
パートやアルバイトなど有期雇用契約の場合、契約期間中の解雇は原則として認められません。
有期雇用契約は雇用期間が契約に明示的に定められており、その期間が終了するまで雇用関係を続けることが合意されています。
契約期間内に朗々者を解雇することは、契約違反とみなされることがあります。
「雇い止め」とは
雇い止めとは、契約で定められた雇用期間が終了した際に、契約を更新せずに雇用を終了することです。
契約期間満了を理由とする雇い止めは原則的に違法ではありません。
しかし、労働者側から雇用継続の申し入れがあった場合は、雇い止めが客観的で合理的と認められなければ、雇用を継続しなければならないケースもあります。(労働契約法19条)
雇い止めを行う場合は、トラブルにならないように以下の点に注意しましょう。
・雇用期間の管理の徹底
・安易な言動は慎む
・業務内容が限定できるのであれば限定する
・契約の更新あるいは通算期間の上限を示す
今後も雇用者の権利を保護する動きは強化されると考えられ、企業側も慎重な対応が必要です。
円満退社を実現するための話し合いの方法
繰り返しますが、雇用主と労働者が争うことなく、円満な退社を実現できるのが理想です。
建設的な話し合いを行うために、雇用主がすべき工夫を紹介します。
窓のない会議室は使わない
窓のない密閉された空間で、「辞めたらどうか?」と伝えるだけで、従業員は退職を強要されたと捉える可能性があります。
話し合いの場は、窓のある開放的な部屋を選びましょう。
話し合いは極力業務時間内に行うこと
退職に関する話し合いを他の社員に聞かれたくないから、業務時間外に飲食店などで話したい気持ちはわかりますが、あくまで仕事上のコミュニケーションです。
寧ろ、外で話すことで社外の人に事情を聞かれてしまうリスクを考え、他の社員が内容を聞き取れない、個室で話し合いを行うようにしましょう。
1回あたりの話し合いの時間を長くし過ぎないこと
解雇を望む雇用主側が従業員を長時間拘束してしまうと、「退職を無理強いされた」と捉えられかねません。
結論が出るまでに時間がかかりそうな時は、話し合いの場を複数回に分け、1回の話し合いにかける時間を短くしましょう。
会話は全て録音されているつもりで話すこと
全ての会話は録音されていると考え、相手に配慮した言葉遣いを徹底してください。
たとえ冗談でも、ハラスメントを匂わせるような発言をしてはいけません。
そこだけ編集で切り取られ、退職の強要を試みた証拠として裁判で使われてしまう可能性があるからです。
いずれにしても、録音の有無に関わらず、円満な退職を実現するには双方がリスペクトの気持ちを持って話し合いに臨みましょう。
感情的な言い合いにならないよう双方が落ち着くこと
人間は主観的な「感情」と客観的な「事実」を混同させて話す傾向があります。
相手に対して怒りの感情を抱けば、当然態度にも出てしまいます。
お互いの言い分を尊重し、実りある話し合いにするためにも、冷静さを保つことを意識してください。
他にも、コミュニケーションにおいて意識すべきポイントは幾つもあります。
いずれにしても、特に雇用主は「解雇は簡単にできるものでも、すべきものでもない」ということを念頭に置くことが重要です。
【まとめ】従業員解雇の仕方、スムーズに手続きを進めるコツとは
従業員を可能な限り円満な形で解雇するには、労働に関する法律をよく理解し以下の点を守ることが重要です。
・解雇に正当な理由があることを確認する
・解雇禁止事項に該当していないかどうかを確認する
・手順を守って解雇予告を行う
上記のような条件を満たしても、従業員が解雇に納得しない場合は労働基準監督署に相談されたり訴訟を起こされたりするケースも考えられます。
解雇は雇用主である企業と、被雇用者である従業員にとって大きな問題です。
特に従業員は例え円満な形であっても少なからず経済的・精神的なダメージを受けることになるでしょう。
問題が複雑化する前に、弁護士や社会保険労務士などプロの力を借りながら、可能な限り円満な形で退職を実現できるよう努めましょう。
◆辞めてもらうのも一苦労
いかがでしょうか?
辞めてもらうというのは簡単なことではないようですね。
特に、社長さんは悩ましい想いをされていることと思います。
少しでも参考にして頂ければ、と思って、いろいろと情報を整理してみました。
参考にしてください。
さらに、実務的なマニュアルについて
なお、読み物の記事として参考になったという方だけでなく、「より実務的な手続きや、マニュアルは無いか?」という方には、下記の教材をご紹介しております。
「お互いが合意のもとでお別れする」という方法について、詳しく手順を解説しておりますので、どうぞ参考にして頂けましたら幸いです。
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